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大阪家庭裁判所 昭和50年(家)2926号 審判 1975年12月26日

申立人 崎田哲(仮名)

主文

申立人に対し、被相続人千田イトの相続財産のなかから相続財産管理に対する報酬として金五〇〇万円を付与する。

理由

1  申立人は、金額の点を除く主文と同旨の審判を求めた。

2  調査の結果によると、以下の実情を認めることができる。

申立人は大阪弁護士会に所属する弁護士であるところ、昭和四七年二月一日被相続人亡千田イトの相続財産管理人に選任され、爾来今日に至るまで相続財産管理事務を行なつてきた。申立人は選任後直ちに管理事務に着手し履行補助者として公認会計士平沢昭を使用して、相続財産の状況を調査したうえ、同年六月二日付で第一回の亡千田イト相続財産の状況報告書を作成し、当裁判所に提出した。ところが、被相続人が生前株式会社○○証券××支店で株式等の売買取引をしており、死亡時△△△自動車四、〇八〇株、○○製作所六、〇〇〇株他七社二万三、七七五株の株券を所有していたものであるが、同証券××支店において被相続人の死後である昭和四六年九月八日被相続人名義で△△△自動車四、〇〇〇株、○○製作所六、〇〇〇株他五社二万二、〇〇〇株を無権限で処分したうえ、その代金で役資信託を買い入れるに至つた。同証券が上記株券を処分するに至つた背景には、被相続人の相続財産について特別縁故者として分与申立てをする予定であつた被相続人の夫雅夫の甥である千田雅則らと千田雅彦との反目抗争があり、同証券では千田雅則らの事実上の承諾を得て処分するに至つたが、無効であることは明らかであり、処分した株券の保護預り証を事実上保管していた千田雅彦に対して預り証の返還を主張する証券会社と無効な処分行為であるからして返還する必要のないばかりか株券の返還を要求する同人が対立し、これに関係人がそれぞれ利害を感じて対立する等紛争の最中に申立人が管理人に選任されたため、申立人はこの紛争を収拾すべく、関係人から事情を聴取し、同証券会社に再三照会状を発して回答を得、当裁判所に依頼して処分株券の詳細を調査したうえ種々調整した結果昭和四七年六月同証券会社××支店長名義で申立人に対して陳謝の意を表明する「差入書」と題する書面を交付させるとともに、被相続人の親族らの面前で陳謝の意を表明させ、申立人が同証券会社の株券処分および役資信託買入れを追認する形で収拾を着けたが、この間の関係人の事情聴取、接衝に多大の労力を費した。そして被相続人の株券は、△△信託銀行××支店、××信託銀行本店、△△信託銀行本店に分散して預証されていたが、被相続人の株式取引用印鑑が発見できず、銀行側に相続財産管理人の権限が充分理解されなかつたこともあつて回収に難渋した。被相続人の財産は不動産と株券、預金、債権等が主たるものであるが、後者の財産は配当金、利息等があるため管理計算業務が複雑であり、履行補助者である公認会計士の使用は管理事務上有効であり、一方前者の不動産である高槻市○○町×丁目×××番の××宅地三三一、七二平方メートルおよび同地上木造亜鉛メッキ鋼板瓦棒葺平家建居宅六〇、七九平方メートルは被相続人が生前単身で居住していたものであるから死後居住する者もなく荒れる一方であり、一時期業者をして管理をさせていたが、それとても週一回の見廻りにすぎず、浮浪者が立入り、近隣者からも防災上危険であるからと苦情を寄せられたため、後示の特別縁故者の相続財産分与申立て事件との兼ね合いにも充分配慮して売却処分することとしたが、折柄所謂オイルショックのため資金力のある適当な買主を捜すのに苦慮し、適正な売買価格を得るため該物件を不動産鑑定士をして鑑定せしめ、当裁判所の許可を得て昭和四九年九月三〇日小山勇に金二、九〇〇万円で売渡し、同年一一月一五日までに代金を全額受領した。次いで、不動産売渡しに伴う譲渡所得税の問題について所轄の茨木税務署と種々交渉した結果非課税の認定を受けた。申立人は相続財産管理人として特別縁故者への相続財産分与申立てについて意見を述べねばならないところ、本件相続財産に対する分与申立ては一九件もの多数に及んだため、適正な意見を述べるため各申立人はもとより、被相続人の近隣者に至るまで事情を聴取して、膨大な意見書等を提出するとともに、第二回の相続財産管理報告書を提出して現在に至つているもので、管理事務は特別縁故者への相続財産分与申立事件の審判に伴う所要の手続等を残すのみであることが認められる。

以上認定の如く、申立人は弁護士としての知識、経験を生かし、また公認会計士を補助者に使用して過誤なく、適正に困難な職責を遂行したこと、調査の結果によると本件相続財産は昭和五〇年九月九日の時点において金四、二五一万三、六一七円であること、その他本件管理事務にあらわれた一切の事情を考慮して、申立人に対する報酬額は金五〇〇万円とするのが相当である。よつて参与員岡野幸之助の意見を聞いて主文のとおり審判する。

(家事審判官 渡部雄策)

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